2016年11月26日

【第13回CO2】助成監督インタビュー(3)『蹄(仮)』木村あさぎ監督/イメージの連鎖が紡ぎ出す“食と身体”にまつわる物語

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子供の頃から“食と身体”について考え続けてきたという木村監督。
ウルリヒ・ザイドル監督の『パラダイス』シリーズがきっかけで映画を撮る事を決心したというのは興味深い。
パラダイスに放たれた人間たちが飽食を身にまとい、自らの欲望に傷ついていく姿は原始の物語を思わせたが、南の紺碧の空の下、“牛になった女”“虫屋”といった不思議なモチーフを手に木村監督はどんな物語を紡いでいくのだろう。

 

――一番最初に映画を面白いと思った時のことは覚えていますか?

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木村:遡ると小学校低学年のことなんですけど、ミュージカル映画の『チキチキバンバン』をDVDで観て「映画って面白いな」と思いました。 その後これも小学生の頃なんですけど、うちの親は映画とか全く好きじゃないのに何故か『ロード・オブ・ザ・リング』を家族で観に行くという年間行事的なものがあって。「映画ってすごいなぁ」と思って。映画監督になりたいと思いました。

――そんな小さい頃から映画監督に!

木村:なんですけど、そう思ったのもそれきり忘れていて。中学・高校時代は何にもないまま過ごしました。高校ではクラブ活動でテニスをやってたんですけど、全然上手くならなくて。それで美術部に入って絵を描き始めて、表現することが楽しいなって思いました。

――絵はどういったところが面白かったですか。

木村:進学校にいたので、まず勉強しなくていいのが楽しかったです(笑)。美術の先生が「とにかく好きなのをやっていいよ」って自由にさせてくれたので、無心になってただ好きなことをやるのが楽しいって感じでした。

――その頃はあまり映画を観ることもなく?

木村:1年に2本くらいでしたね。私沖縄出身なんですけど、桜坂劇場っていう小劇場があってそれがわりと家の近所だったので。ファッションにも興味があったので、イヴ・サンローランのドキュメンタリーとか。『サラリーマンneo』とか本当に
何も考えずに……面白そうと思ったものを観るって感じですね。

大学進学で上京し、周囲の人々が知識豊富なことに自分は何もないと引け目を感じたという木村監督。時間だけはあったため自分の中に何かをインプットしようと焦って映画館に行くようになった。東京の映画館の数に驚き、子供の頃映画が好きだったことを思い出した。「映画って面白いな」程度の感覚だったのが一転、強烈に映画に惹かれていったきっかけは東京国際映画祭だったという。

木村:たまたま『パラダイス』(ウルリヒ・ザイドル監督)のシリーズを観たんですけど、観終わった時会場がざわざわしてて。“何これ全然意味わからない”っていう雰囲気になったのに衝撃を受けて。みんなに全然受け入れられてないのに、何かよく分からないものが心に残って。「映画ってこういうのがあってもいいんだ!」っていう衝撃がありました。

img_8538――ご自身は『パラダイス』のシリーズをどのように見られたんでしょうか。

木村:正直理解できない部分が多かったんですけど、欲望って言うものを包み隠さずストレートにただ写しているだけなんですけど、それが物語になっていて。欲望って生きている上で隠すじゃないですか。こんな風に表現するってことがあるんだって。ただ驚いたっていう感じで。振り返るとそれがきっかけで、自分もやってみたいって気持ちになったと思うんです。

――それは面白い体験でしたね!そう思ってから具体的にどう動きだしたんですか。

木村:とりあえず何かしようと思って東京で学校探して。いろいろ見学に行ったんですけど、感覚でイメージフォーラム映像研究所を選んで、そこから映像制作を始めました。

――イメージフォーラムでは、どのようにして制作を進めていく感じでしたか?

木村:授業は特に指導がないんですよ。例えば脚本はこう作って、スタッフワークはこうでみたいに映画の撮り方を教えられるんじゃなくて、とにかく“作って来ーい”みたいにポンと投げ出される感じで。
授業は作家の方が来て自分の作品について話すと言う感じで、テクニックを学ぶと言うよりは作家さんがどういう心で作っているのかということから学ぶスタイルです。映画の撮り方が全く分からないまま撮ったって言う感じですね。

img_8463img_8460――一番最初はどういう作品を撮りましたか。

木村:最初は1分の作品を撮って来るよう言われました。その時からずっと一貫して「食と身体」が自分の中でテーマになっていて、当時は1人でご飯を食べると言う事に対する違和感を感じていたので、1人で食べるのか誰かと食べるのかによって食べる量や食べ方を変えていることに気がついて作品を作りました。イメージしにくいですよね(笑)

 

――では少し遡ってお聞きしますが、「食と身体」は何故テーマとして浮かんだのでしょうか。

木村:子供の頃から自分が太っているとずっと思っていて、誰かと比べたのか自分の容姿が劣っていると。今思えば全然太ってなかったんですけど、その頃から「身体」に対して興味とコンプレックスがあったんですね。「食べる」ことに対してはコントロールの出来なさを客観的に見ていたようなところがあって、自分ってなんだろうってずっと思っていました。なので特別なことではないんです。

――最初の作品ではそれの思いをどの様に作品に落とし込みましたか?

木村:女性が食卓でご飯を食べているんですけど、手前にも食べ物が並んでいるんですが誰もいなくて、テレビには何か流れていて点滅している状態でご飯を食べている映像です。1人で食べることができないことを埋めるように、テレビをつけて対話するように食事している様子を作品にしたものです。

――講師や他の方の反応は?

木村:1分間でどういう風に編集できるか考えて、カメラは固定しておいて光の点滅のタイミングで動きを変えていったんですけど、「光で編集するのが面白いね」って技術的なことについて言われた感じで、内容に関しては「変なの、そんなのあるんだ」みたいな反応で(笑)。

img_8545-2――あんまり反応が得られなかったんですね。課題で撮る作品は長いものになっていくんですか。

木村:そうですね。ちょっとずつそれ含めて短いですけど4本撮りました。

――撮っていくにつれて、何か意識は変わっていきましたか?

木村:ストーリーがなくてイメージ的なもので、それを続けていくうちに、イメージだけの表現で伝わるものの限界を感じて。学校の先生はまだしも、外部の方からは「結局なんですか?」みたいな感じで言われることも多かったので、イメージだけじゃなくて伝えるために必要なストーリーが自分には足りないなって思ってました。

――CO2に応募したきっかけは?

木村:物語で語れると良いなと思っていたので、現状から脱出したい思いもあって。たまたまCO2のホームページを見たら「快感を味わうためには必需品である物語を脅かしてはならない」というキャッチコピーにあったので惹かれました。CO2は前から知っていました。

――どんなイメージがありました?

木村:東京でCO2の上映があって、たまたまそれを観に行ったんですけど作品は『Dressing UP』でした。

img_8549――CO2に期待することは何かありますか。

木村:自分が弱いと自覚している物語の部分をサポートして下さることにすごく期待してますし、この機会を活かしたいって思っています。これまで制作は3~4人でやってきました。純度が高くなると言えばそうなんですけど、なんとなく内輪ノリになってしまうような感じから脱したいという思いもあって。CO2の名前でたくさんの人を巻き込む機会を得たので、「映画」というものに改めて挑戦したいって思ってます。

――今回CO2助成監督に選ばれたのはどこが評価されたと思いましたか?

木村:正直プレゼンがダメだったので。いつも話があっちに行ったりこっちに行ったりで、上手く話せなかったので驚いています。

――選考委員の質問で何かで印象に残ったものはありますか。

木村:虫屋に対する食いつきが意外とあったってことですね。虫屋や牛といった要素に注目して下さったのかなと思います。

――この企画は虫や牛、前作『鱗のない魚』では魚をモチーフに表現されていたんですけど、そういうモチーフを使っての表現はどういったところから出てくるんでしょうか。

木村:父親が虫屋だっていうのがあって。虫屋が一番身近な存在で、幼い頃からそうやって自然の中で遊んでいたのもあります。手塚治虫の『火の鳥』を読んで生まれ変わりを想像したり。動物や石といったものがかつて何かだったかもしれないと思っていて。奇をてらっているわけではなく、子供の頃から普通に考えていたことです。

img_8596――今回の映画を一言で表現してください。

木村:「牛になった女を追いかける男の話」

――CO2の条件の中で作品を作るにあたって自分に課している事はありますか?

木村:スケジュール的に厳しいかなと思うところもあるんですけど、性格的にのんびりしているので、却って良いと思います。 大阪については今まで馴染みがなかったんですが、ロケハンで回ってみると色々と面白いところがたくさんありますし。
沖縄と東京しか住んだことがないんですけど、どことなく沖縄に近いところもあるんですよ。商店街の中でみんなが仲良さそうにしている。東京でそういったところに行ったことがないせいかもしれないですけど。

――今どちらに住んでいるんですか。

木村:神奈川県に住んでいて、映画館のある東京都内を行き来するような感じです。大阪にこうやって来れたのでそういう面白い場所は生かしたいなぁと。

――作品が完成したその後の展開はどういうふうに考えていますか。

木村:世界の映画祭で通用するような作品を作りたい、と思っています。外国の同世代で作っている人とも交流してどういう風に作っているのか知りたいです。

――木村さんはなぜ映画を撮り続けているんでしょうか。「食と身体」ということにつながってくるかもしれないですね。 これからも撮り続けたいというモチベーションはどこから来るんでしょうか。

木村:まず映画が好きで…というか映像が好きなのかもしれないですね。映像の視覚的な刺激で様々な情報が入ってくるのが好きなんです。撮り続けているのは、それまで自分は「何もないな」って思っていった中で映像を始めて、「続けたい」「これを続ける」って決めたっていうのもあります。

――決めたことが続く方ですか。

木村:続かないこともありますね。でも自分の表現したいことが「食と身体」で、1番大事なのは自分の中の何を表現するのかってことですから、今は映画ですけどそれだけにこだわらずに、もっと伝わる表現方法があればそれも挑戦したいと思っています。


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