全く異なる戦略で新しい映画製作のあり方を構築しているシネアスト(=映画人)たちを迎えお話を伺うCO2特別ゲスト講座。2016年1月23日に行われた企画・配給プロデューサーの直井卓俊さん、MOOSIC LAB 2015でグランプリを受賞した『いいにおいのする映画』の酒井麻衣監督のトークを公開します。
酒井麻衣監督は4/30(土)の『いいにおいのする映画』関西公開を前に、4/17(日)に大阪のLoft PlusOne Westで開催される東西を代表する若手発掘プロジェクト、MOOSIC LABとCO2のコラボレーションイベント「MOOSICO2 (むーじっくーおーつー)」に出演。ゆうばりファンタスティック映画祭審査員特別賞『脱脱脱脱17』の松本花奈監督、第9回CO2助成作品『Dressing UP』(安川有果監督)、『脱脱脱脱17』出演の祷キララさん、第12回CO2助成監督・藤村明世監督とのトーク、音楽ライブにCO2助成作品『見栄を張る』の特別上映あり、こちらもぜひチェックを!
酒井監督のチャンスのつかみ方
酒井麻衣監督とプロデューサー直井卓俊さんの出会いは2015年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭。学生映画特集で司会を務めたのが直井さんだった。
ゆうばり映画祭で直井さんにアタックしようとした酒井監督。しかしその反応は冷たかったという。
「直井さんは色んな方に何か企画があれば、と投げてるから、チャンスをつかめるかつかめないかは自分次第」
企画を送り、直井さんと面談出来る機会を得た酒井監督。ゆうばりの苦い思い出があるので気合を入れて臨んだ。
「直井さんに“映画より酒井さん本人の方が面白い、隠さず映画に自己投影してみたら?”と言われました」
直井「話してみるとファンタジーでも酒井さんの好みは意外とダーク。今この時代にファンタジーをやるにしても、リアリティのある生々しい話が受けている時代ですから。何か地に足の着くポイントがないとこの企画は勝てないという意味で、自己投影したキャラクターを前面に出すようアドバイスしました」
直井さんから提案のあったアーティストの中で、酒井監督はVampilliaしかない!と思ったという。
直井「どれかひっかかればとのことで企画を幾つも出して来られると冷める。酒井さんはVampilliaでこれがやりたい!と明確でしたよね」
後日、Vampilliaのライブを照明・PAの後ろの関係者席で観た事でヒロインを照明技師にするというアイディアが浮かんだ。
酒井「私は監督という裏方の人間なので、裏方が魔法を掛ける話にしたいと思いました」
直井「その、”裏方でファンタジー”という設定が面白いと思ったんですよね」
監督を選ぶポイントとは
直井「その人に向いてる企画は何だろうと考えるところから一緒にやります」
以前は松江哲明監督や入江悠監督などその才能に惚れ込んでタッグを組んできたが、ムージックラボを手掛けるようになって考え方が変わってきたという。
直井「ムージックのいいところは企画の時点でコラボするアーティストの楽曲の世界観などを意識してそれまでなかった物が引きだされたり、どう自分の世界観と融合させるか工夫してどう個性を出すかっていう頭を使う事ですかね。だから誰にでも可能性はあるんですよ。そこに気付けたのがここ1、2年ですね」
酒井監督の場合は気合いが違っていたという。
直井「ライブに飛び込んでいって「映画やらせてください!お願いします!」『いいにおいのする映画』のヒロインと一緒。その後やりたいことをつらぬいて自分の世界観にとりこんでいく、みたいな(笑)。最終的にVampilliaさんも巻き込まれてくれました」
当時は京都で就職していた酒井監督。ライブの度に東京、大阪、京都問わず通った。その都度メンバーにプロットを見せてやる気をアピールした。
酒井「これは自分たち(Vampillia)の映画だと思ってもらいたくて見やすいように一ページ目に配役を載せた、あらすじのようなプロットを毎回渡しました。各キャラクターの精神分析のような解説を見て、皆さんが段々ノリ気になってくださったように感じました」
直井「リアルなVampilliaというより酒井さんの思うファンタジーに融合したもう一つのVampilliaとして割り切って付き合ってくれました」
酒井「Vampilliaさんのファンは男性が多いのですが、もっと色んな方にVampilliaさんの魅力を伝えたい!と思い、主人公を女の子にするなど考えました」
クラウドファンディング実践篇
ムージックラボは自主映画のコンペということで、制作は監督達の自己資金で行われている。
「チャンスの神様は前髪しかないから、正面から抱きしめないとと想い、このチャンスに賭けようと。これで掴めなかったら映画やめた方が良いかもと思いました」
両親にグランプリ取れなかったら長野に帰ると約束し、自主映画作るために京都の勤め先を退職し上京した。
『いいにおいのする映画』がクラウドファンディングに挑戦することになったのは、撮影が終わり追撮が必要となったが資金が足りなくなったためだ。出演者のVampillia、金子理江さん、中嶋春陽さん、吉村界人さんサイドは好意的に受け入れてくれた。
直井「最初から準備をして宣伝のためのクラウドファンディングではなく、“追撮をしたい。及び今後の宣伝に使いたい”という理由だったからアピールとしては弱い。やり方として効率が悪い。作品自体がイメージを掴みづらいものだったから、集めにくい方だったと思う」
直井さんが以前に手掛けた『世界の終わりのいずこねこ』は、いずこねこが活動休止することになり、最後のプロジェクトが映画という状況だったため約460万円が集まった。
直井「アイドルとクラウドファンディングは相性がいいと思う」
しかし当然のことながら、リターンメニューの経費を達成金額から捻出するのか?など考えるべきことは多い。達成金額から捻出した場合は、実質残金が大幅に減ることになる。
リターンメニューの経費はそんなにかかるものなのか?
直井「作るモノによりますね。以前やった某作品の時は紙モノがたくさんあって、等身大パネルとかも作ったんですけど、印刷が甘いから作り直せとか言われたりとか。お金が出してる人ほど怖いモノはない(笑)。スタッフたちが泣きそうになってました」その経験から、印刷ものではなくなるべくデータで対応し、郵送、印刷物を出来るだけ減らしてコストを抑えるようにしたという。
『いいにおいのする映画』では、集まりが悪いとなった時に、Vampillia側から追加リターンの提案があり、ミッチーさんのヌード写真集著作権300万円やミッチーさんとのデート券1000円といった遊びのあるものが話題になった。
他、映画特典や、酒井監督の大学時代の作品をDVD化したものなど様々なリターンメニューを用意したが、レアな一品ということからこの酒井監督の大学時代の作品DVDが一番支持が多かったという。
最近ではエンドロールに名前が出るという得点だけではユーザーにアピールするのは難しいという。
リターンメニューの担当者も必要になる。謝礼が必要となるとここでも経費がかかる。
直井「だからこそ、ちゃんと宣伝になってないと挑戦する意味がない」
しかし、酒井監督は宣伝より制作費がないことで頭がいっぱいだったようだ。
酒井「とにかく必死で宣伝を頑張るしかなかったです。わたしも理江ちゃんも春陽ちゃんも界人くんも、Vampilliaさんも自分たちで発信して宣伝しました。クラウドファンディングが終わった後、Twitterなどで名前を聞いたことがあるからなんか面白いんじゃない?観てみようかなって足を運んでくれる人が増えたり。試写を見たそれぞれのトップオタさんがみんな良かったって宣伝してくれて、他のオタさんもついてきてくれたのを実感しました。みんなで応援し合ってつくりあげていく感じを体感しました。みなさんに感謝です。やってよかったなと思えました」
直井「それってまさに宣伝じゃないですか。クラウドファンディングやることによってこの映画がどういう映画か伝えないといけない。監督たちも考えないといけなくなるし、客観性を持てる。
単純にお金集めとして嫌う人はいっぱいいるけど、良いところもあると思う。ただやっぱり、資金がヤバいんでって理由では極力やらない方がいい」
酒井「そうですね。もうそんな理由ではやらないようにします(笑)」
目標金額は何故100万円だったのか?
直井「物凄く頑張ったら達成出来る金額かつ、これぐらいは集めないとやる意味はないよねというところですかね」
『いいにおいのする映画』は手数料20パーセントを差し引かれるキャンプファイヤーでクラウドファンディングに臨んだ。モーションギャラリーは10パーセントで、目標額に達成しなくても手数料20パーセントにを差し引いた額が貰えるため、モーションギャラリーに参加する人が多いという。キャンプファイヤーは達成しなければもらえないが、達成させることを重視したため敢えてこちらを選んだ。(※2015年夏時点での仕様)
直井「達成しなかったらお客さん全員に返金されるんです。ただリターンも貰えない。だからお客さんも一緒に頑張ってやって貰える」
酒井「他のプロジェクトをみたら、上手な方は何も知らないのに応援したくなることが書いてある。何をしたいのか明確になっている人は強いと思います」
地方で映画制作は可能か?
話は地方での映画制作の可能性へ。
酒井「地方では近くのコミュニティーに加わらせてもらうのが一番近道だと思います。関西だったらCO2とかありますよね」
直井「フィルムコミッションがあるところに行くのもいいと思う。後は地方の映画祭もいっぱいあるし、面白い人がたくさんいます。『百円の恋』だって周南「絆」映画祭という山口県の町の小さい映画祭で、松田優作さんが下関出身だから松田優作賞を立ち上げて、公募をやろうと言ったところから始まっています。」
酒井「監督目線かもしれないけど、見てもらわないと映画って死んじゃうじゃないですか」
京都造形大・映画学科在学中から酒井監督が好き、かつ目指しているのは、
「みんなが和気あいあいと楽しめるミーハーな映画でした」
まずは映画祭に出品して入選したら何かが変わるかもしれないと考えた。しかしグランプリを取った人でも賞止まりになることも多いと気付いたという。
「次の年に作った映画にご縁とご好意により、永瀬正敏さんに友情出演してもらった作品では新聞などニュースになり、永瀬さんの力のすごさ、周りにあたえる影響の強さを痛感しました。自主制作映画にもかかわらず永瀬さんのファンやいろんな方に観に来てもらえたんですけど、映画祭以外での上映などはあまりなく、せっかく永瀬正敏さんに出演していただいたのに悔しい気持ちでいっぱいでした」
継続的に作品を観せる事ができる場所がないと悩んでいたところにムージックラボの存在を知った酒井監督。
「何回も継続的にお客さんに観てもらえる。今まで作った自分の作品の中で一番お客さんが観に来てくれました。お客さんが沢山観に来てくれる場を作ってくださったという事が一番嬉しかったです」
ムージックラボは業界人気が高く、面白い才能を見つけるために音楽業界の人が観に来るという。
直井「音楽っていう括りがあるから見比べ易い。アーティストとの化学反応を得て自分のやりたいことの一つ上に持っていける」
その中でプロデューサーの存在は大きいという。
酒井「直井さんの助言がなければ自分が出せなかったと思います。映画を学んでいた頃は、それをやることに意味や必要あるかの話になって、どんどん削れて小さくなっていった。“出来るか分からないけどやってみたら?”って言ってくださったので(笑)ギリギリまで攻めて出来ました」
直井「そういうこと言ってるから現場スタッフから睨まれるんですよね(笑)」
京都造形大で講師をしている直井さん。
直井「考えれば考えるほどみんな面白くなくなっていく。ムージックラボは特に一発目で書いたプロットが一番面白かったりして。初期衝動が大切なのかな。整合性を図って脚本書いていくとどんどん失速するケースが多いです」
グランプリを取ったり結果出した人には次の企画をどんどん振るという。
直井「監督が自分で持ち出しになる分のお金の苦労もあるけど、その中で良い結果を出した人はぴあのスカラシップ的に1つ上のステージに上げてあげて、予算ありきで作らせてあげるのが理想かなと思います」
『いいにおいのする映画』劇場公開に向けて
上映枠の話では、ミニシアター以外にも、シネコンではAKBの選挙やサッカーをパブリックビューイングで見るようなODS(other digital stuff)という非映画の枠を使っての上映の例が話題に。
直井「松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ3D』をその枠でやって、限定公開になることで色々経費が減るんですね。上映回数が限られることがむしろメリットという。大根仁監督の電気グルーヴの『DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~』は、ODSで限定公開してお客さんが入ったので上映を拡大したといったことも」
Q&Aでは酒井監督の今後について「ファンタジー路線で行くのか、外れてちがう路線に行くのか?」と言った質問が。
酒井監督は今後も何らかのファンタジーは作っていくとしながらも、特殊なジャンルというイメージは誤解があると言う。
「何でも見方によってはファンタジーになります。日常生活にある、もしかしたらそうかもしれないというきらめきを探して撮っていきたい。その精神は変えずに小さい頃の自分に見せても恥ずかしくないようにしていきたいですね」
『いいにおいのする映画』は、関西、名古屋などムージックラボ上映の地域を中心に順次公開予定となっている。
最近はインディーズ映画の地方上映が厳しいと言う現実がある。ムージックラボ上映の際に『いいにおいのする映画』の感想を見ると普段映画館に来なそうな女の子の共感度が高かったという。関西では4月30日(土)〜大阪・第七藝術劇場&京都・立誠シネマ、5月7日(土)〜神戸・元町映画館の公開のため、動向をぜひチェック頂きたい。
最後に酒井監督から観客に熱いコメントが!
「今日大阪に来れて良かったです!呼んでくださってありがとうございます。
わたしも何モノでもない人間だったんですけど、今もそうなんですが、死ぬ気で賭けをして、今が行く時だと思った時に飛び出したんですね。学生さんも多分いらっしゃると思うんですけど、必ず誰にでも宝石はあると思う。磨き方を間違えなければ絶対に輝くと思う。自分なりの磨き方、見せ方を考えてセルフプロデュースしていったらきっとやりたいことが出来ると思いますので、そういった方の勇気になれば嬉しいです。今日は本当にありがとうございました!」