2014年10月20日

助成監督インタビュー(2)/長谷川億名監督「人間性の光と闇を描きたい」

第11回CO2助成監督3名が決定し、それぞれ制作に向けて動き出しています。今年CO2に挑むのはどんな個性の持ち主か!?助成監督たちのインタビューをお届けします。

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【長谷川億名 ハセガワヨクナ】
1985年栃木県生まれ。東京都在住。幼い頃から映像に目覚め、映画に憧れながら、家にあったビデオカメラでコラージュ映像を作り始める。2006年頃よりインターネットを利用し、Yokna Patofa名義で作品を多数発表。写真の分野でも2013年度キヤノン写真新世紀で佳作受賞。2012年頃から、近未来日本を舞台にした「日本零年三部作」を構想。第一部として、映画『イリュミナシオン』を完成させる。今作は、その第二部となる。
★新人公募枠での選出

企画名『アビス(仮)』※『DUAL CITY/デュアル・シティ(仮)』にタイトル変更。
南北に分断された近未来日本。内戦の続く北部で野戦病院の看護師として働く依子は、情報生命となった娘と対話することを安らぎとしていた。あるとき、治療にあたっていた兵士から少女の遺体を南部に届けてほしいと託される。遺体に埋め込まれているチップから、北部内戦が政府のある計画のもと行われていると知った依子は遺体とともに南部へ向かう。近未来を舞台にしたSF作品。

 

 

映画の世界のことをずっと考えていた夏休み

現在東京で活動しているが長谷川さんは、栃木市の那須出身。小学生時代は鍵っ子だったという。友達のお母さんに大林宣彦監督の『水の旅人』に連れて行ってもらい映画の世界に魅了された。
「観終わって家に帰ったら1人なので、あの人たちどうしてるんだろう、なんて映画の世界のことをずっと考えていた夏休みでしたね」

小6か中1の頃には、テレビで林海象監督の濱マイクシリーズ3作目である『罠』を観て衝撃を受けた。

「マイクが血だらけで立ち上がろうとしているシーンを観て何なのか分からないけど“かっこいい!”と思って」

その後、ラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』やウォン・カーワイ監督のカメラマンであるクリストファー・ドイルが監督を務めた、浅野忠信主演の『孔雀』といった作品に惹かれた。

「映像に目覚めたのは、ハーモニー・コリン監督の『ガンモ』をテレビで放送するのを映像で収めたいとホームビデオカメラで撮ったのが最初。それだけじゃさみしかったから色んな風景をコラージュしたのが始まりでした」

 

 

写真や映像は欲望に近く、映画は自己献身的なイメージ

そんな小・中校時代を送った長谷川さんだが、実際に映画を撮り始めたのは昨年、28歳になってからだった。映画を撮りたい気持ちはあったが、映画がどう成り立っているかわからなかったという。
大学は哲学科専攻で上智と早稲田に入ったが中退。フィルムで写真を撮ってきた。

「感じ取るものがある風景、取り残された風景に惹かれます。みんな何故ここに気付かないんだろうみたいな。人を撮る時は基本的にスナップが好きです」

写真の分野では去年2013年度キヤノン写真新世紀で佳作を受賞した。

「それをきっかけに本当にやりたいことをやろうと思いました。今までは人のためにやろうという気持ちもあったけど、自分の世界にも価値を与えようと。映画への思いがどんどん強くなっていったんです」

一緒に活動する仲間が1人いて、作品づくりをサポートしてくれた。未完成作品が2本。そして去年から今年にかけて撮った作品が、近未来日本を舞台にした「日本零年3部作」の第1部『イリュミナシオン』。
「テーマは簡単に言うと“癒す”です。弱い存在、無力な存在の自己献身を通して癒される。平和な南部の少年が、戦地に行った親友の死を受け入れる瞬間までを描いています。」

映画、映像、写真の違いとは?
「写真は欲望に近いですね。映像も欲望に近くて、映画はもっと自己献身。映像やってる人に怒られるかも(笑)。映画は命があります。命の質が違う。例えばストーリーがあることは大きな要素ですが、それ以外にも世界があって動き回れる広さがある。CO2事務局長の富岡さんは“演技に一貫性があること”と仰っていたけど、それがもしかしたら命かも」

映画を撮り始める前にシド・フィールドの本で脚本を独学した。“映画は最初と最後のシーンが関連している”と書かれていて、その事をその後忘れていた長谷川さん。

「実際に出来た映画を観たら計算したわけでもないのに同じシーンで終わっていて、映画って凄いなって。自分を誤魔化さずに映画をやるとそうなるんだと。映画にはそういう何かがあると思います」

 

 

深い絶望があるリアリティに惹かれる

長谷川さんにどんな映画が好きか尋ねてみた。

「今は台湾映画、イラン映画、沖縄映画、ハンガリー映画、ポーランドの映画も好きですね。過酷な状況の中で、それを乗り越えて自国のアイデンティティが出ている映画に感動します。例えば、沖縄の『ウンタマギルー』は米軍に人が殺されるシーンがありますが、そんなことを気にせずひょうひょうと歩いている人がいたり、リアルで深い絶望がある。それを前提として自分たちがいることを見つめているのが沖縄的。戦争映画に興味があるし、ただの戦争映画にはしたくない。SFという設定を借りながら自分で考えてみたいし、繊細な感情も描きたいと思います」

 

 

人間に価値はあるのか、ないのか?

CO2に応募したのは今まで作られてきた作品群のユニークさだった。

「他の助成金のものとは違ってエキセントリックな映画を助成しているので面白いなと思って応募しました。この企画では、“人間性の光と闇”を緻密に描きたいです。主人公は、娘を亡くし野戦病院で働く看護師の34歳の女性。弱くてどうしようもない人がインターネットを利用して世界を救うという話です」

SFの世界観をどう表現するのか?参考作品としてパリを近未来としたゴダールの『アルファヴィル』、書割だけで町を表現したラース・フォン・トリアーの『ドッグヴィル』が挙がる。

「トリアーは初期の『ヨーロッパ』では、合成を使ったりして歴史叙事詩を撮っていたので参考になりますね。チープなんだけど所々に一点豪華主義をポイント的に使おうと思ってます。大阪の今のロケーションも昔の人にとっては十分近未来だし、効果的に使えるものが一杯あると思うので、それを利用して撮って行きたいです」

『アビス(仮)』は「日本零年3部作」の第2部に当たる。

「お金はないけどテーマは壮大だと思っているし、世界中の人に観て貰いたいです。共通するのは人間に価値があるのか無いのか。最終的に“ある”と提示できる作品にしたいです」

長谷川さんに今一番興味あることを尋ねてみると、「小エビ」と「部活」という答えが返ってきた。
演劇、イベントとそれぞれ目的・興味が違う友人と3人で、スタニラフスキーの弟子であるマイケル・チェーホフの『演技者へ』で心理身体的訓練を実践しようとしている。

「映画って撮って無い時間に何をするかが大事で。色々なやり方の人がいるけどお金がないので、私は大人の部活で最初から最後までやってみようと(笑)」

一方、小エビというのは知人から貰ったヤマトヌマエビのこと。今は5匹を小瓶で飼っているが、1年程で死んでしまうライフサイクルという。

「人間と全然ルールが違うんですよね。私のことを向こうは知らないのが面白いです」

様々な世界観に興味を持つ長谷川さん。『アビス(仮)』をどう撮り上げて第3部につなげていくのか期待したい。


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