第8回助成監督選考は、これまでの映画祭入賞経験などは考慮せず、参考作品として前作品と新たな企画内容だけを重視しました。それぞれの題材・テーマを監督たちがどう認識し、捉えてそれをどんな方法で映像に還元するのか、どう物語化するのか、という企画の推敲を重ねての最終選考となりました。今年は助成作品を3本にし、一方で開催したワークショップに参加した方々(21〜55才)やインターン登録者で3本の短編オムニバスを制作しました。(こちらは賞選考対象外。)
以下、第8回CO2助成作品賞選考の総評です。
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禱キララさん(左)と梅澤和寛監督(右)3/11(日)第8回CO2授賞式にて
梅澤和寛監督『治療休暇』は、現代の20代の二人の男を主人公に、日常のコミュニケーションが出来ない幼児化した若者像を描いた新しい青春映画ともいえる作品です。「他者」を理解出来ず、家族との対話も成立しない社会性の希薄な20代を題材にするという難しい題材でしたが、監督自らが日常感じる現在の日本の若者像を映像と物語によってどう見せるか、どういった構成にするのか脚本の執筆段階でも何度も推敲を重ねましたが、撮影が始まっても物語の結末が見えない状況が続きました。撮影の力によって助けられた部分は多くありましたし、主演の俳優も不愉快な若者像を誠実に演じましたが着地点が定まらず、最後まで映画としての終わりを明確に示しえなかったという欠点が目立ちます。しかし前作の短編(参考作品)と比較すると、初の長編としてはかなりの成長ぶりがみられました。その意味で『治療休暇』に選考委員特別賞を送ることになりました。また、大正区などの海沿いの工場風景や、これまでの大阪ロケの商業映画を含めてもなかなか見る事のできなかった大阪の風景を発見し、その過酷な条件で素晴らしい撮影を行ったことに対し、Panasonc技術賞も受賞する結果となりました。
安川有果監督『Dressing UP』は中学生の少女を主人公に、幼い頃にいなくなった母親像を探すファンタジーホラーが題材でした。「人間じゃなくなってしまう」という少女の恐怖の妄想を軸に話は進みますが、最初の脚本段階にあった、最終的には少女が「社会」や「世界」を発見し変化、成長するという物語の後半部分が描ききれておらず、特殊メイクの撮影や、大人の俳優の演技に対しての演出が仕切れていない点が見て取れる事が残念でした。そして主役を演じた禱キララさんの存在感はすばらしかったのですが、これは演技によるものというより、本来彼女が持つ魅力に起因してるので、俳優賞の対象からは外れました。しかし今後も俳優として続けていただける期待を込めて、今回特別に新人賞を授与する結果になりました。
常本琢招監督『蒼白者』ですが、主演には昨年日本でも話題になり、キネマ旬報でも外国映画として高く評価された韓国インディペンデント映画『息もできない』の主演女優であるキム・コッビさん、相手役には日本映画の若手俳優として映画・ドラマでも活躍する忍成修吾さんを迎え、韓国ソウルのロケオフィスの一部協力も得るという、これまでのCO2作品にはなかった「アイドル系のアクション映画」に挑戦しました。撮影にはプロの撮影監督や照明技師、録音技師も参加しました。楽しめるアクション映画にはなりましたが、脚本の段階でのストーリーの消化不足もあり、キム・コッビさんの演技や魅力を十分に引き出せておらず、結果として飛び抜けた新鮮さにまで至らなかったのが残念でした。
それぞれの完成作品は今後東京での上映(予定)を含め、すでに2作品は英語字幕も完成していますので、海外映画祭への出品を目指すことになります。