2011年11月17日

レポート10/9(日)【CO2特別映画講座/黒沢清監督】(3)

企画について

富岡「日本のミニシアターは作りにくい状況になって来ていますが、今の黒沢さんとしては、200万、300万の自主映画を作るって可能性はありますか」

黒沢「ないとは言えないですね。商業映画、進めてはいるんですがなかなか僕にまでお金が回ってこない。『トウキョウソナタ』から3年、撮影からすると4年目になろうかとしています。先日はWOWOWでドラマを久しぶりにやりましたが。企画は色々あるんだよなーでも撮れないんだよなーって言い続けていると、“まずい!長谷川和彦状態になりつつあるのかな”って危機感はありますね」

富岡「以前黒沢さんと話してたんですが、今の若い人って企画をあまり考えないんですね。絶えず5つ6つはすぐ撮れる企画を持っていて、ってことをあまりしていないように見える。CO2の作品を見ていても、締め切りに合わせてぱっと書きましたって人が多い」

黒沢「何を持ってして企画力というのか難しいところですが、若いときは単に“これをやりたい!”っていうのが企画力だと思います。実現してこそ“あれはいい企画だったね”ってことになる訳ですから。実現しない企画を10持っていても偉いかどうかです。確実に実現する1つを持っている方が偉いかもしれない」

 

映画製作において絶対譲れないこととは

黒沢「僕の場合は現場でのカット割りで、絶対に譲らないですね。中にそれを譲っちゃう人がいて、最初から出来上がったものを「はい、分かりました!」って撮るとか、カメラマンに任せちゃうとか。それはそれでそういう撮り方もあるんだなって思いますが、僕はどんなカメラマンが来ようが、誰がどう言って来ようが、“これをこう撮る”」
「それこそが僕が映画を撮っている確信だ、と気が付いたのが『スイートホーム』のときで、そこで対立したんですね。他は何やってもいいけど、プロデューサーが「こう撮ってくれ」「嫌だ。こう撮りたい」「一緒じゃない」「いや、まるで違う」。物凄い拘ってるんだって自覚しましたね」

富岡「それぞれ監督によって、守るべきところは違うってことなんですね」

大江「黒沢さんが求めるカメラマンの役割とは何ですか」

黒沢「大きいですね、カメラマン。ひとえにセンスですね。どんな絵を撮っているかほとんど見ないので最終的に出来上がってからでないと分からないですけど、これ位のサイズでこの辺からこう移動するといったことは全部僕が決めます。実際にどんな絵になるかはカメラマンによりますね。経験的にセンスあるって人はセンスあるし、センスない人は何言ってもダメです。これはカメラの特質ですのでセンスを見抜くしかないですね」

 

核心的なショットはどう生まれる?

最後にQ&Aタイムが設けられました。

観客女性「各シーンで撮りたい核心的なショットについて脚本の段階から考えておられるんでしょうか。それとも現場に行って、この俳優だったらこのシーンを撮りたいと思われるのか、どんな風にご自分の中から生まれて来るんでしょうか」

黒沢「最初からある訳ではありません。ロケハンしてその場所に立ったときに、こういうカットかもとひらめくってことが一番多いかと思います。思い込みが本当の現場で足をひっぱりかねないので、絶対にそうだとは決めつけはしません。自分はほぼそうだと確信していても、ギリギリまでその準備をしてくれとみんなに言う事はないです。ただ、徐々に明かしていくんですけどね。ここに長いレールを敷くかもねとか。突然言うとエライことになりますから。そうしないとその日の内に撮り切れなくなる。その辺は経験するうちになんとなく分かってきましたけど、毎回ヒヤヒヤものですよ」

黒沢「これはあんまり皆さんにオススメは出来ないでしょうけど、僕はよほど特殊な夜間撮影がない限り、現場は6時に終わるんですね。朝8時くらいに始まって、夕飯は家に帰って食べる。その代わり次の日のことを色々考える訳です。6時に終わるのは僕が6時に終わらせようとしているからなんです。何でそんなことをするのかって言うと、これが自主映画と商業映画の違いなのかもしれませんが、6時に終わって夕飯食べてお酒のみに行けるとなると、相当な無理を俳優もスタッフも聞いてくれる。なんのカリスマ性もない監督の最大の武器になる訳です。だから俳優がもめたりしたら6時に終わらなくなるんで、みんなが冷たい目で見る訳です。“監督の言うとおりにやっていれば6時に終わるのに”。(会場笑)それで撮影が何日か続くととてつもないことを僕が言っても、もちろんやれる範囲ですが、“訳わかんないけど、多分6時に終わるよ”ってことで大抵言う事を聞いてくれるんです」(会場笑)


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