美術部の仕事、と聞いて思い浮かぶのは何ですか?セットデザイン作成、と思われがちですが、美術部の仕事は実に多岐に渡っています。「美術を見ることで照明監督が、撮影監督がプランを考えることができる」
「美術は絵の得手、不得手は関係ないということ。脚本を読み込んでいかにイメージするか、そのための知識がどれだけあるかが重要」。と講師を勤めた美術デザイナーの宇山隆之さん。
宇山さんは、山下敦弘監督の『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』といったインディーズ映画から、『男たちの大和』『バルトの楽園』といった東映の時代大作にも参加していらっしゃいます。
宇山さんは美術部の仕事の実際を9つのパートに分けて説明。
1.シナリオの把握
2.ロケ、セット、オープンセット、ロケセット、CGの仕分け
3.ロケハン(採寸、写真撮影など)
4.資料の収集、整理
5.セットプランの作成
6.監督とプランデザイン打ち合わせ
7.セットデザイン作成(平面図、立面図、透視図、部分詳細図)
8.美術部各パート責任者とのすり合わせ
9.スケジュール調整
この中でも最重要事項として宇山さんが挙げたのが<1.シナリオの把握>。美術を想定して読むことで発想が広がるとのこと。現場にシナリオを持っていくのは恥ずかしいと思って、20回30回、人の倍読み込むことが大事だそうです。例えば、シナリオで家族の仲が悪い台詞があるとする。→ラップを掛けたご飯が置いてある。流しにかぴかぴの食器、というように発想を広げていきます。
次に重要なのが <4.資料の収集、整理>。どれだけシナリオを読み込んでいるかで資料集めの質が変わり、どれだけ資料を集められるかで作品の質が変わってきます。
最重要な公式行事が、<6.監督とプランデザイン打ち合わせ>。美術のみ全体で打ち合わせがあり、チラシ1枚の色から決めていく。これを元に監督と撮影部、監督と照明部など、バラバラで打ち合わせをするそうです。
1?6で全てが決まるとのことです。
「実際のインディーズ映画では、元々美術はほとんどいなかったんです。自分たちの持ち物を持ち寄って1つの部屋を作ることが多く、それは確かに楽しいけど、演出意図がしっかりしていないとどんどんバラバラになっていきます。美術監督が統括して作る方がしっかりと演出プランに沿ったものになるという、美術セクションの重要性に気付いたインディーズの人達も、どんどん取り入れるようになって来ました」
「美術監督はイメージするのが仕事と言う話をしましたが、町場ではそれだけではなく何でもできることが求められます。僕の場合は元々建築の仕事をしていたので大工仕事が出来る。セットも建てるし、装飾もする、料理もする。自分で図面の線も引く、絵も描く。一人で全部できるからやって来られたんです」
宇山さんは、プラネットプラスワンの映画館と映写室、1Fのカフェ・太陽の塔の内装も手がけているそうです
「僕が芸術家だったらもっと前衛的に仕上げるんですけど、映画をやる人間はサラリーマン的な感覚が必要。お金の計算をして、その中でやりくりしてやりたいことに近づけることが大事。デザイナーはクライアントが居て、それに沿ったものに美術的な付加価値、演出的な付加価値をつけて初めて成立する。美術は半分芸術家、半分デザイナーでないといけないんです」
後半は中崎町の町屋を改造してつくったお茶屋さんに移動。日本の建築は世界の中でも文化水準の高い箱庭方式で、畳の数を数えれば座敷の寸法が分かり、それを元に平面図をすぐに起こせるとのこと。美術における基本寸法の取り方を教わり、参加者全員で実際に部屋の平面図を書いてみました。
宇山さんが手掛けた東映時代大作のエピソードなども飛び出して、密度の濃い美術講座入門となりました。
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