2018年6月30日

『月夜釜合戦』ワークショップ レポート

2018年6月2日(土)、6月10日(日)
『月夜釜合戦』の16mmフィルム&宣伝 実践ワークショップ を開催しました。

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月夜釜合戦ワークショップ

皆様、こんにちは。『月夜釜合戦』のプロデューサーの梶井と申します。今回は「16mmフィルム&宣伝 実践ワークショップ」にご参加いただき、また当ワークショップに興味を持ってこのページをご覧いただきありがとうございます。

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『月夜釜合戦』は以前からチーム内で映写機の仕組みや操作を実践するという講座(?)を内部で企画・実施してきました。チーム内の映写ができるということはこれから『月夜釜合戦』の自主上映を展開していくうえで必要不可欠ですが、すべての上映会場で月釜のメンバーが映写をすることを想定していては、今後関西から遠く離れた場所で上映会を実施する際に映写機の移動や映写技師の派遣からくる負担が課題となることが予想されます。予算を十分に割ける持ち込みの企画ならまだしも、上映会場の確保、映写機材の準備、十分に宣伝をして観客を呼び込み最終的に上映会を黒字にすることは至難の技です。かつて日本各地で自主上映会がさかんに行われていたときには、たとえば大学の映研など各団体に映写機があったり、映写の技術もそれぞれに自然と継承されていたと思われます。しかし、フィルムで自主上映を行っているという話は最近ほとんど聞かなくなってしまいました。これから『月夜釜合戦』の上映をフィルムで続けていくうえで、月釜のメンバーだけでなく全国的にフィルム映写による上映会を立ち上げていく運動そのものを再構築していく必要があるのではないか。インターネットでも映画をはじめいろんなジャンルの映像が個人で楽しめる今、人々にフィルムの映写技術を覚えてまで映画を観たい・見せたいという欲望を喚起することなど可能なのか。やや途方に暮れていたときに今回の提案を受け、外部に開かれたワークショップとして「映写」の講座を公開することにしました。当ワークショップの中心にあるのは「映写」ですが、上映会を成功に導くためには、どのような上映会をするのかという「企画」の部分やどうやって人を呼び込むのかという「宣伝」の要素が不可欠です。今回は富岡邦彦氏(CO2運営事務局 代表/プラネット+1 代表)と田辺ユウキ氏(映画宣伝)にも講師を担当していただきました。

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では、ワークショップの中身を簡単に振り返ってみたいと思います。
まず富岡さんのほうから映画の歴史と自主映画の歴史についての講義がありました。
1894年のエジソンのキネトスコープ・1895年リュミエールのシネマトグラフの誕生から始まり約120年の映画の歴史について短い時間でしたが横断していただきました。特に印象に残ったのがいわゆる自主映画と海外でもよく使われるインディペンデント映画は少し意味合いが違うということでした。日本の自主映画のように自己資金で映画を作ったり、自分達で資金を集めて映画を製作するスタイルは世界的にみてもまず例がないとのこと。『月夜釜合戦』も自己資金と自分達で集めたカンパをつかって製作されましたが、かつてヨーロッパで作られた前衛的なインディペンデント映画や1950年代にニューヨークを中心に広がったアンダーグラウンド映画はどのように資金面の課題をクリアしていたのだろうかと、そんな興味がふつふつと湧く内容でした。

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日本で自主映画のムーブメントが起こったときは、アンチ商業映画としての意味合いが強かったことも興味を引きました。1960年代はまだ映画も産業として成立していたため、またテレビ以外にはインターネットで映像が見れるという世界も実現していなかったため、自主的に作られる映画が商業映画のアンチとしても機能していたことは想像に難くありません。しかし、当時から約50年が経過した今、自主映画はおろか商業映画ですら興行だけでは製作費を回収することが難しくなっている状況で、自主映画を商業映画のアンチとして位置付けるだけではなく、いろんなジャンルの映像がインターネットで簡単に閲覧できる時代に、自主映画を製作し上映することをどう位置付けるのかということを改めて考える時期に来ていると思いました。

そして次に行われたのがお待ちかねの映写の実践ワークショップです。この回もまず富岡さんのほうから映写機の仕組みや構造についての話を最初にして頂きました。映写機はメーカや型式によって細部に違いはあるものの、大まかな構造や動作原理は共通しています。例えば、画のコマに対してそこに対応する音(サウンドトラック)は 26コマ進んだところにあります。これは16ミリであればどのフィルムでも共通なので、どの映写機を見てもランプからフィルムに光が当たる窓の部分からサウンドレンズにエキサイターランプから光が供給されているところまではおおよそ26コマで到達するように設計されています。また、映写機は大きく分けて間欠運動を行うためのいわゆるミシン部と、そこに光を供給するためのランプハウスとに構造は分けて考えることができることなど、映写機の仕組みとフィルム映写の原理について基本的な説明をして頂きました。

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次に3台ないし、4台の映写機に分かれて個々に映写機にフィルムをかけて映写を実践してみます。映写機のパーツにはそれぞれ意味(役割)があります。アパーチャープレートとプレッシャープレートでフィルムを挟み込むところはなぜそうしなければならないか。その上下にループというフィルムの余裕を作っておくのはなぜか。サウンドドラムに巻きつけるフィルムはなぜピンとテンションを張らなくてはならないのか。理屈では分かることではあるのですが、映写機に実際にフィルムを通す作業を通じて感覚的に理解していただけたのではないでしょうか。

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そしてフィルムがかけ終わったらレバーを正回転の方向に倒して光を出します。実際に映写機を回してスクリーンに映画が映ったときの喜びは決してデジタルのプロジェクターでは味わえないものです。初めて映写機に触れるという方も多く、実際に映写機が回って映画が投影されたときには、小さいながらも気持ちのこもった拍手が自然と起こりました。

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フィルムがかかる、映写機が回る、映画が投影される…こうした直感的な理解が肉体的な作業を経て強固になり、何かが実現されるというときの喜びは今後も不滅でしょう。受講者の方からも「フィルムを触ってしまうと、映画に対する愛着はまた違ったものになっ てしまいますね」という感想もお聞きしました。

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たとえフィルムを触るのが初めての人であっても丁寧に手順を追って説明をしてもらえれば、一通りは映写について行えるということは受講者、企画者双方にとって収穫だったのではないかと思います。これは富岡さん初め、講師として参加してくれたプラネット+1のスタッフの力も大きかったと思います。デジタルだと、個別にソフトウェアをダウンロードしてインターネットで使い方を検索して…という方法が一般的かと思いますが、人から人へとノウハウを伝承しなければいけないフィルムの映写は、経験のある人が丁寧に進めれば技術を伝えることは可能だということを感じました。ただ一方で、今回せっかくフィルムや映写機を触ったのだから継続して触る機会があればと思うのですが、現状ではプラネット+1などで触らせてもらうくらいしか手はないと思いますので、今後はそういう機会をどのように提供するのかも課題だと感じました。

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そして最後に、映画上映の企画・宣伝についてのワークショップが行われました。映画は人に観てもらって完成すると言われますが、上映会を企画し、宣伝をして観客を集めることで何がしかの収益を確保しなければ、今後の上映や次回作の製作につなげていくことができません。今回は実際にプロでご活躍されている田辺ユウキさんからまずプロの世界ではどのように宣伝の戦略が練られているのかをお話しいただきました。その後2018年6月現在、自主上映会だけでなくミニシアターにおける劇場公開も続ける『月夜釜合戦』においてはどのように、上映を企画し、宣伝を行っているのかについてもお話しをさせていただきました。

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田辺さんのお話しで現実的なお金の話がありました。製作した映画を配給会社に配給してもらう場合、製作費を回収しようと思ったら実際は製作費の4.5倍くらいの興行収入が必要とのこと。100万円の製作費で作られた映画の場合でも映画会社に依頼すると450万円の興行収入が必要な計算になります。お客さんの単価が平均で1300円くらいだと言われている今の劇場のシステムだと、だいたい3000人以上の動員が必要だということになります。でもこの3000人の動員というのも自主製作では簡単ではないし、そもそも100万円で映画を作るということはデジタルならともかくフィルムで作ることは不可能です。自主映画を製作して映画会社に依頼して製作費を簡単に回収できるほど現実の興行は甘くはありません。ですので、自主映画の場合は、映画会社に依頼して展開する部分を自分たちで行う自主配給にしたり、自主上映会という形で展開するなどして収益を上げる方法を考えます。『月夜釜合戦』の場合は、自主上映と自主配給の両方をやるという形を取っています。プロの世界ではどのように宣伝の戦略を練っているか、どのように他の店舗とのタイアップを企画したり、宣伝する映画に応じた宣伝手法を考えているかというところをお話しいただきました。

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田辺さんから、宣伝はいくらマスコミや雑誌などの媒体に取り上げられたからと言ってヒットするかどうかは蓋を開けてみないと分からないという話がありました。私自身も映画を劇場で上映することが決定したものの、実際に行う宣伝がどれくらいの効果を持っているものなのか、実際にどれくらい動員につながっているのか実感ができないというところに宣伝の難しさを感じていました。「宣伝の効果を実感として感じるのは難しいと思いますが、田辺さんは宣伝が上手くいったかどうかをどのようにご自身で評価されているのですか」という質問には、「やはり自分がどれだけ動いたか、その結果どれだけマスコミに取り上げられたり、媒体の数を取れたかというところが一つの指標になると思います」とのこと。やはりプロの世界でも客観的に宣伝の効果を把握することは難しく、最後は蓋を開けてみないと分からないという世界なのかと感じました。
その後『月夜釜合戦』が自主配給という形で劇場公開を展開していること、自主上映を現時点ではどのように展開しているかをお話しさせていただきました。『月夜釜合戦』の場合はいかにこの映画をフィルムで観てもらうか、というところがとても大きいのでそれゆえに自主配給や自主上映を展開する必要があることが理解していただけたと思います。劇場公開においても映画館によっては16ミリの映写機がなかったり、映写室に映写機を置くだけのスペースが残されていなかったりすることもあるため、その都度映写環境については劇場側と折衝を重ねています。そういった意味でも今回のワークショップの中心となった「映写」が、特に『月夜釜合戦』の上映においては重要であることを掴めていただけたのではないでしょうか。

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上映会の企画・宣伝のワークショップの課題として感じたのは、これから上映会を企画したり宣伝したりする人にとって興味のあることは、「映画はどこで借りられるのか」ということがあるかと思います。私達は映画を作ってそれを上映することの必要性から映画の上映会の宣伝をすることになりましたが、映画を作らずとも上映会を企画する場合には無数の映画の中から上映したい映画や上映できる映画を選ばなくてはなりません。富岡さんからお聞きした話によると、かつて映画が産業として成立していた時代は、映画のプリントや映写機を貸し出す会社があり、学園祭での映画上映や映研が企画する上映会などもそのようにレンタルしていたそうです。では、今フラットに上映会を企画したとき、そもそも映画ってどこで借りたらいいのか。それ以前に、DVDやインターネットを介して気軽に映画だけではなく映像作品を楽しめる今、なぜ上映会をしたいのか、なぜそれを他の人達と一緒に観たいのか、という根本の部分をしっかりと考えて上映会を企画する必要があるかと思います。

終わりに

フィルムで製作された『月夜釜合戦』という映画に興味を持ってもらいたくて、今回のワークショップを企画させていただきましたが、これ以降フィルムで映画を製作することは極めて困難になることが予想される中、それでもフィルムで映画を上映し続ける意味は なんだろうかということをワークショップを通じて考えることになりました。映画はデジタル時代になり、映画を作ること自体は簡単になりました。ですが、CGや手の込んだ特殊効果も使えない、フェードイン・フェードアウトといった今やマウスをクリックするだけでできてしまう作業に多額の費用がかかるといった状況で作られたフィルムで製作された映画のほうにかえって力を感じることは少なくありません。これからはフィルムで映画を作ることにこだわるのではなく、フィルムで作られた映画から映画が持っている力を再発見し、たとえデジタルであったとしても映画としての力を込めるにはどのように作ればよいのかを発見していかないといけないと思います。そういう意味で、フィルムで製作された映画をフィルムで上映する「映写」という作業の重要性は今後増していく可能性すらあるのではないかと感じました。映画を再発見するという試みはまだ始まったばかりだ、と言えるのではないでしょうか。
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ワークショップにご参加いただき、また最後までお読みいただき誠にありがとうございました。


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