第11回CO2助成監督3名が決定し、それぞれ制作に向けて動き出しています。今年CO2に挑むのはどんな個性の持ち主か!?助成監督たちのインタビューをお届けします。
【松本大志 マツモトダイシ】
1985年10月17日生まれ千葉県出身、東京都渋谷区在住。成城大学文芸学部芸術学科にて映画学を専攻。同校映画研究部に入部、以後自主映画の制作を続ける。現在は映画美学校第15期フィクションコース高等科に在籍中。演出部として万田邦敏監督『イヌミチ』、染谷将太監督『シミラーバットディファレント』などに参加。短編『NEVER TO PART』が第1回LOAD SHOWコンペティションに入選。
★俳優特待生起用枠(辻凪子を主演に起用)での選出
企画名『ウエディング・ロード(仮)』
塔子は、年上の恋人・瑛志からのプロポーズに乗り気になれないでいた。ある日のデート中、瑛志の運転する車が女を轢いてしまう。警察に電話をかけようとした塔子の手を強く掴んだ瑛志の鬼気迫る表情を見つめ「埋めよう」と呟いた塔子。女の持ち物からホテルのキーを見つけ、その女の姿になってみるが…。犯罪から変化していく女を描くフィルム・ノワール。
8ミリ撮影とデジタル撮影の狭間を体験
子供の頃は映画館で『マスク』、『ジュマンジ』、アニメといった当時の子供が観る映画を観たという松本さん。父親はシネフィルではないがVHSをよくレンタルしてきた。
「ジム・キャリーとか、爆発がでかい映画を父親が借りてくるから面白いと思って一緒に観ていました」
その後も映画に親しんでいた松本さんだったが、大学浪人をすることになった。時間が出来たのを機にはじめてTSUTAYAのカードを自分で作り、 当時流行っていた洋画や邦画を観まくった。
演劇、映画、ジャンルは問わず作ってみたいと思い、成城大学文芸学部芸術学科に合格。
「映画学担当の木村建哉先生が面白い映画を題材に、ここはこんな演出があると教えてくれるんですが、これが実に楽しそうに解説するんですね。先生自身、映画好きなのが観ててわかるし。授業は楽しかったですね」
映画の技法や演出を、作品を通じて学ぶ。ヒッチコック監督や古典のミュージカル、小津安二郎監督や溝口健二監督、成瀬巳喜男監督を取り上げたかと思えば、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』など当時の新作も解説の題材になった。
木村氏は映画研究部の顧問もやっていたことから、松本さんは授業で映画学を学び、映研で8ミリを撮るという学生生活に。最初に8ミリカメラを回した時の印象は、
「面白かったですね。単純に今まで俺らが普通に観ていたのはこういうことだったのねと分かりました。カットが変わることを理屈で考えたことなかったけど、こちら側からこう撮ってたんだって」
フィルム編集の切って貼ってもやってみて理解出来た。一年生の夏頃からデジタル撮影が普及し始めた。
「いざデジタルになってみると映画にならない。僕のイメージだと全部がホームビデオみたいな。生っぽい、真っ平な映像しか写らない。そうなると、照明を工夫したり撮り方を考えて、フィルムを目指して撮影するようになりました」
卒業後、レンタルビデオ店でバイトをしつつ映画を撮ろうと考えていたが、集まる拠点もなくなり、松本さんも友人達もそれぞれ多忙な仕事の場を優先するようになり、段々「撮る」ということから離れていった。
そんな中、学生時代の松本さんが凄い作品を作ると一目置いていた友人の実家が東日本大震災で倒壊した。その友人は、震災が起こる前に撮った実家の映像と、携帯のカメラで撮影した実家があった場所の映像から作品を作った。
「凄げえなと思ったんです。失礼な言い方だけど、ずるいなと。あいつにしか出来ないし」
友人から受ける刺激も大きな映画制作のモチベーションとなっている。
何を目指して芝居を作るのか?
現在、映画美学校に在学中の松本さん。入学してみると周囲は筋金入りのシネフィルばかり。自分はシネフィルではなく映画ファンだと気付かされたと笑う。
1年目は高橋洋監督、大工原正樹監督、井川耕一郎監督といった講師陣に学び、2年目は万田邦敏監督の作品に参加。『イヌミチ』で演出助手としてスケジュールを担当。撮影後ポスプロでは編集のオペレーターを希望し、万田監督の編集を見て学び、現場で何をやっているのか分からなかったことが理解出来た。
万田監督は撮影中にカットの使いどころが明確でダラダラ回さない。現場でなぜここを撮らないんだろうと思った部分も編集をしてみて使えないものだと気付いた。フィルムのノスタルジーを語るのは好きではないが、フィルム撮影を経験したことでデジタル撮影の利点であるはずの長時間撮影の弊害も見えてきた。
「ダラダラ回すのが普通になると、何を目指して芝居を作っているのかが分からなくなる。編集でOKカットを探すのはよくないと思うんです」
無軌道な行動が魅力的に見えるアイドル映画を目指したい!
CO2については横浜聡子監督(第3回CO2助成作品『ジャーマン+雨』)や三宅唱監督(第6回CO2助成作品『やくたたず』)で知っていた。キツイというイメージはあったが、大阪のプロジェクトなのが面白そうと応募。今まできちんとした企画書を書いたことがなく、戸惑ったという。
企画を一言で表すと?と振ってみると、
「一言で説明し辛いものだから…。これが問題でもある気がしますね(笑)」
「女性が感覚で動くところに何がしかの憧れがあるのかも。ある事件をきっかけに急激に変化する女性。表情、顔つき自体が変わっていくところを描きたいです」
それでは“女性の変化を描く?”と聞いてみると、肯定しつつもまだまだ明確な言葉には行き着いていないようだ。今回松本さんは【俳優特待生起用枠】での選出となった。俳優特待生である辻凪子さんを主演に起用するというものだ。『ウエディング・ロード(仮)』のヒロインはプロポーズを受けるか悩む女性。結婚、出産という現実を目前にした大人の女性を想定していた。
「辻さんは十代。この人を当てはめてみたら?と考えた時に、自分の手から完全に離れて勝手にキャラクターが動いた感じがして。それが面白いなと。彼女の無軌道な行動が魅力的に見えるアイドル映画にしたいです。震災があって、なんでも起こりえる現代だからこそ映画でしか見られないものを作りたい」
現在興味があることを尋ねてみると、
「結婚ってなんだろうって考えたりしています」
という回答が。円満な両親の元に育った松本さんだが、映画の道に進んだこともあり自分が結婚するといった姿が想像できないでいたという。縛るものが増えるのかと思っていたが、そうではないのかもと思い始めた。
そういった心境の変化が作品にどんな影響をもたらすか興味深い。
周りに還元できる制作体制で映画を作り続けたい
松本さんは、海外の映画祭については興味をもってもらうのはいいことだが、わかりやすい映画ではないという自覚から、まずは日本の観客に届けることが第一だと考えている。
「鑑賞に堪える作品にしたいですね。今後は手伝ってくれる人達にお金などきちんと還元できるようにしていきたい。それができるのであれば商業、自主にこだわりはないです」
前述の松本さんに刺激を与えた友人もスタッフとして松本さんをサポートしてくれる。今まで映画制作を支えてくれた友人達になんとか報いていくことが今後の課題の1つでもある。
「この作品をとにかく面白いものにして、そのあとも間を空けずどんどん撮っていきたいです」
その第一歩として、松本さんがどんな「アイドル映画」を完成させるのか楽しみに待ちたい。