2018年5月8日

JISYU Vol.5レポート

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JISYU vol.5 〈自主映画アーカイヴ上映〉
ヴィジュアリストの伝説 映像の魔術師・手塚眞

報告者:田中晋平(神戸映画保存ネットワーク客員研究員)

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4月14、15日に神戸の元町映画館と大阪プラネット・プラスワンで行われたJISYU Vol.5〈自主映画アーカイヴ上映〉では、「ヴィジュアリストの伝説 映像の魔術師・手塚眞」と題し、手塚氏による最初期の8mmフィルムから2017年のハイビジョンによる最新作までを一挙に上映した。
 
手塚眞氏は、高校時代に仲間と制作した8mm映画『FANTASTIC★PARTY』(1977年)で注目を浴び、その後「ぴあフィルムフェスティバル」などに作品が入選、日本大学芸術学部在籍時に最初の劇場公開作品『星くず兄弟の伝説』(1985年)を監督された。現在33年ぶりに続編『星くず兄弟の新たな伝説』が全国で上映されており(2月に元町映画館でも新作に加え、85年の『星くず兄弟の伝説』が再上映された)、この新作公開のタイミングで、「映画監督」という肩書きではなく、「ヴィジュアリスト」を名乗り、メディアを横断して活躍されてきたその足跡を辿る機会を作りたいということが、今回の企画の出発点にあった。当日は、かつての8mmや16mmフィルムによる作品上映に加えて手塚氏によるトークも行われ、両会場ともに盛況を呈した。
 
まず、神戸でのAプログラムでは、「16mmの冒険」と題して、故・黒沢美香が巨大な炎を背にダンスする『PRELUDE』(1988年)、アニメーションによる代表作ともいわれる『MODEL』(1987年)、さらに『燐』(1993年)、『妄繋空花之狂』(1989年)、『ダニエルとミランダ』(1996年)、『MNEMOSYNE』(1991年)の6作品が上映された。これらは『星くず兄弟の伝説』以降、そして、大作『白痴』(1999年)に至るまでの期間に製作された実験的、あるいは構造映画的な作品といえる。上映前の監督の挨拶で、記憶の女神の名からとられた『MNEMOSYNE』では解像度を変更して映像を反復させているという企図が語られた際、アンディ・ウォーホルの『エンパイア』(1964年)や『スリープ』(1963年)の試みを例に挙げていたことが印象に残った。こうした試みが商業映画監督としてデビューを果たした後に展開されている点が重要だが、炎や女性たちのイメージなどが明確に『白痴』という大作へと通じているように、作品相互の繋がりについても今回詳しく確認することができた。
 
Bプログラム「アート映画の越境」では、当初予定されていた『MIRAGES』(2010年)、『SPh』(1983年)、『OKUAGA』(2017年)に加え、急遽手塚氏が日大時代に授業の課題として提出した最初の16mmフィルム『はまぐり』(1983年)も上映された(トークでは、主演の伊武雅刀氏の役を当初坂本龍一氏が演じる予定だったが、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(1983年)の撮影と重なり、実現しなかったという貴重な裏話も伺えた)。当時の東京という都市の寓話である劇映画『SPh』と、ジョン・フォックスが音楽を手掛けた『MIRAGES』や『OKUAGA』に認められる奥深い自然の風景は、対立しているというより、むしろ共に「場所」やそのなかの「人」から立ち上がる想像力を出発点とした作品と捉えうる。『白痴』がきっかけとなって、新潟で手塚氏は、これまでにも少人数による8mm作品を制作してきたが、その最新作で「地域創生型作品」とも呼ばれる『OKUAGA』では、カメラマンが持ってきたというドローンを急遽活用した撮影も試みられている。個人作業によるアニメーションなどの試みと共に、特定の場所や他者を介したコラボレーション作品の系譜も、今回の全プログラムを通じて浮かび上がった。

15日の大阪では、午前から開始されたワークショップの後、Cプログラム「8mmの挑戦」が行われ、オフシアター・フィルムフェスティバル、PFFにも入選した初期の『UNK』(1979年)、『HIGH-SCHOOL-TERROR』(1979年)、そして、長編作品『MOMENT』(1981年)が上映された。今回残念ながら上映できなかった『FANTASTIC★PARTY』とほぼ同時期、高校在学時に制作された『UNK』は、スティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』(1977年)へのオマージュであり、全体が即興的な表現で形作られている。監督のトークでは、中学生の時に公開された『ジョーズ』(1975年)を観て驚き、その演出を細部まで学ぶため、映画館に10回は通ったというエピソードも明かされた。一方のホラー映画である『HIGH-SCHOOL-TERROR』は、絵コンテに基づき緻密に構築されたエンターテインメント作品。そして、『MOMENT』も娯楽映画としての完成度を保ちながら、コメディやミュージカルの展開を経て、衝撃的な結末に至る。当時ぴあ主催のラフォーレ原宿で行われた『MOMENT』の上映会では、6階ホールから1階まで行列ができる数の観客が訪れ、一回の上映予定だったのを急遽二回にせねばならないほどの盛況だったらしい。また、本作にも参加している映画監督の今関あきよし氏や小林ひろとし氏らと手塚氏は、「MOVIE MATE 100%」というグループを結成し、自分たちの作品や他の自主映画を取り上げ、全国に上映活動を広げていったとのことだ。
 
最後にDプログラム「8mmの恍惚」では、成長する映画・完結しない映画と呼ばれている『惑星TEトLA』(1985年に開始)の最新ヴァージョンを、手塚氏による朗読パフォーマンス付きで上映した。全編が8mmで制作されており、追加撮影を続け、上映のたびに再編集を加える本作は、33年間一度も同じ状態で観られたことがない。当初30分だった作品は、この日上映された120分ほどの長さにまで達している。このように「映画」や「作品」の枠組み自体も問い直させる作品からエンターテインメントの商業映画まで越境していく「ヴィジュアリスト」の活動だが、トークでも語られたように、手塚氏の全ての活動をフォローできている者は、(本人を除いて)いないようだ。『星くず兄弟の新たな伝説』を鑑賞し、他の手塚眞の映画も観てみようと当日参加された方には、とても驚かれた可能性もある。さらにいえばテレビやイベント演出、ソフト開発などにわたる活動まで、今回一切触れられなかった。上映できた作品も、あくまでそのフィルモグラフィーの一部に過ぎないが、これまでのJISYUのシリーズで取り上げた70/80年代の自主映画とは全く異なる、独自のスタンスで作品を発表されてきた氏の映画術の魅力は、十分に確認できたのではないか。

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